はつじょがゆく!
廿日市市新宮にある、おひさまパン工房の野村直さんにお話を聞きました。
パン屋さんを始めたきっかけ
野村さんは創業前、食品会社で商品開発などに携わっていました。
ある時、メーカーやスーパーのバイヤーが集まる勉強会に参加する機会があり、マーケティングについての話を聞きました。
そこで野村さんは『お客様をつくること、絆をつくること』こそがマーケティングであると学びます。
商品開発をしてもお客様の声が直接自分に入ってくるわけではなく、「お客様との絆づくり」という考えに感化された野村さんは、いてもたってもいられず、自分で商売を始めることを決意しました。
古い慣習が残り、人も少なく、地域社会が狭いところなら絆づくりをしながら商売ができるんじゃないかと考え、宮島で創業することにした野村さん。
何をやるかが決まっていなかったので、地元の方に何に困っているか、どんなもの、サービスがあったら嬉しいかを聞いてまわりました。
その中に「パン屋さんがあったらいいのに」という声がありました。
年配の方が多い宮島。
年配の方にとって、パンは持って帰るのにも軽いし、調理の必要がなく、柔らかいので食べやすいと聞いた野村さんは、パン屋を開業することにしました。
パン屋をやると決めたものの、それまでパンを焼いたこともなかった野村さんは、東京にある日本パン技術研究所の100日コースに飛び込みます。
100日間泊まり込みで集中して学ぶこのコースには、有名なパンチェーン店から社内選抜されてきたような人たちばかりが参加しており、野村さんのような経験のない人は珍しかったといいます。
「ほんとにパン屋をやるの?」と言われながら、その時の仲間が、開業前の準備に入れ替わり立ち代わり泊まり込みでやってきてくれ、手伝ってくれました。
オープン時の苦い経験
2010年4月に薪窯で焼く『おひさまパン工房』を宮島にオープン。
ところが記念すべきオープン初日に思いもよらないことが起きます。
何度も練習していたにも関わらず、型に油が馴染んでいなかったのか、焼けたパンが型から出て来ず、くしゃくしゃな状態に。
夕方再度焼き直したものの、また同じ状態で失敗してしまいます。
オープンを楽しみに来店してくださった大勢のお客様に、パンを買っていただくことができなかった申し訳なさと悔しさが残る初日となってしまいました。
その後は地元宮島の方に愛され、また世界的な観光地であることから、大勢の観光客が来店するようになり、多忙を極めました。
野村さんはあまりの忙しさにたびたび体調不良をおこし、臨時休業せざるをえない日が増えていきます。
働き方と体調を考え、宮島の店を閉めることを決断。
最後の日、常連さんが買って行ってくださるのは、食パン「おひさまパン」ばかり。オープン初日に型から外れず、お客様に迷惑をかけたあの食パンです。
酵母づくりから始まり、4日もの時間をかけて出来上がるおひさまパンは、お客様に愛される、店を代表する商品です。
試行錯誤を重ねて生まれたサンドイッチシリーズ
縁あって2017年4月に現在の場所に移転オープン。
移転してからは厳しい経営状態が続き、様々なことに挑戦してきました。
レストランをやってみたり、流行りのコッペパンを売ってみたり、石窯のパン屋さんだからと大きなカンパーニュを焼いてみたり、食パンの種類を増やしてみたりと試行錯誤の日々でした。
そんな時思い出したのが、みんながおひさまパンばかり買って行ってくれた宮島最後の日のこと。
野村さんは、みんなに愛される、自分も自信を持って作っているおひさまパンに絞っていこうと考えます。
食べてもらう機会を増やすため、おひさまパンを使ったサンドイッチを販売していこうと新しい商品を開発しました。
おひさまパンに4種類の自家製クリームと、10種類の季節のフルーツをサンドした「生フルーツサンド」は人気No.1の商品です。
毎月15日は「いちごの日」として、4種類のいちごが入った食べ比べができるいちごのフルーツサンド、また23日は「フルサンの日」として、フルーツを15種類に増やしたプレミアム生フルーツサンドが楽しめます。
廿日市市宮内にある肉の菊貞さんに相談し、寒い季節でも食べたくなるような商品として瀬戸もみじ豚を使った「金のカツサンド」も商品に加わりました。
牡蠣の殻を飼料に育てる「瀬戸もみじ豚」は、広島で4軒しか養豚していない希少性のある豚です。
普段はもみじ豚のフィレと背ロース部分を使ったカツサンドですが、毎月10日は「豚(トン)の日」ということで、フィレ・ロース・モモ・メンチカツの4種類が楽しめる贅沢サンドイッチが販売されます。
ホームページやインスタグラムのメッセージ、ラインから予約可能です。
おひさまパン工房公式LINE
https://line.me/R/ti/p/%40330lkrem
いいものを作っていたらお客さんは来てくれると思っていた野村さんですが、伝えないと分からないことがたくさんあると気づき、店内のポップや外の看板にも工夫を続けてきました。
どんな作り方をしているのか、どんな人が喜んで食べてくださっているか、気持ちが伝わるよう手書きで作成しています。
ここを街の風景にする
移転してきた時から考えているのが「いつかここを街の風景にする」といういうことでした。
「店が街の風景になるくらい、みんなに慣れ親しんでもらって長く続けていきたいし、この広いスペースを活用してもらったら嬉しいです。」と話す野村さん。
「廿日市でこれから創業する人、すでに創業している人、同じようなことで悩んでいるかもしれない。私もずいぶん苦労したし辛い思いを味わってきたので、思いを共有し、これまでの経験を伝えられる場所にしていきたいです。自分が成長し続けないと、説得力に欠けるから。他の人に伝えることが自分のモチベーションにつながります。」
宮島時代、業種の違う仲間同士で宮島を盛り上げるために奮闘してきた野村さん。
志が一緒の人が集まれば、この辺り一帯にお客さんが行き来するような形を作ることができるのではないかと期待しています。
東園 恵
おひさまパン工房
住所/広島県廿日市市新宮2-14-14
電話/0829-32-6055
営業時間/11:23(いいね、フルサン)~売り切れまで
定休日/月・火曜日
http://www.miyajima-pan.com/
Writing:Kawasaki Kyoko